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ブチブチと玄関先の雑草を千切りながら考えてしまうのは、母と城崎の事。
俺は[父親]の事を何も知らない。
知りたいと母に聞けばいいだけの、それだけの事だけど、何故か聞けずにずるずると聞かずにいる。
〈……聞いてみようか〉
俺は立ち上がり、踵を返して家の中に入った。
「ふぁぁ……」
欠伸を人目から隠すようにして、片手でタバコに火を付ける。
「4時間しか寝てないんだ……他にもお抱えの作家が何人かいるもんでね。しかも仕事中……何の用だ?お迎えは午後の約束なんだが?」
城崎は[やれやれ]というように、煙を吐き出した。
機嫌が悪いわけではないようだ。
柔らかい、落ち着いた声で笑みを浮かべて俺を見る。
出版社の近く、城崎の指定する小さくも雰囲気の温かい喫茶店内。
俺は母の部屋から城崎の名刺を探しだしてコイツを呼び出した。
やっぱり、母に直接聞けない。
泣いてしまうかもしれない……そう思うと、聞いてはいけないと頭と身体が拒否する。
もっと幼ければ簡単に聞けるだろうなと思う。
聞かなかったのは[その必要がない]と思えていたからだ。
仕事中だと言うくせに、城崎は軽く俺の誘いに応じてくれた。
昼食をとるついでだと言って、連絡すると11時にこの店を待ち合わせ場所にしてきた。
あいにく、俺の腹は[朝食]で膨れているので、食事は注文せずドリンクだけを頼んだ。
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