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母の体から現れた公平は濡れた顔を腕で拭ってから動くモノを見るべく目を上げた。
城崎はため息を吐いてリビングのソファーにゆっくりと座り、素知らぬ顔をしていた。
涼しげな整った横顔に真っ赤な目をした公平は「バカにしてんだろ」と呟く。
「してねぇよ」
「笑いたきゃ笑えよ」
「笑わねぇよ」
「……ガキで、悪かったな」
「別に思ってねぇよ……ガキでいいじゃねぇか、男なんて、皆ガキなんだよ。惚れた女相手にカッコつけなくていい……ガキのまんまがいいんだよ……それで、いいんだ」
出掛ける用意などたいしてなかった俺はリビングの静かな会話を、その間に入れず通路に立って隠れるようにして聞いていた。
城崎の声は優しくもなく、冷たくもなく、言い聞かせるように聞こえた。
公平は無言になり、恐らく城崎を見ていたんだと思う。
「るーいー!行くよー!」
母が薄らと化粧をしてカジュアルなお洒落を施して部屋から出てくると、城崎は立ち上がって歩き出し、「じゃぁな」と公平に声を掛け「んじゃ、行くか。早くしないと俺の仕事が詰まってくる」と嫌味を吐いた。
俺達は公平を残して出掛けた。
帰宅すると真っ暗な中で公平は大人しく俺の部屋の角に丸まっていた。
忘れていられた楽しい時間が一気に堕ちた。
「……帰れよ」
「慰めろよ」
「……いや、帰れ」
公平は夏休みが終わるまでウチから動かなかった……。
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