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「すご……」
ああ、そうだな、凄い。
麻琴の感嘆する声に俺は脱力して項垂れた。
「きれい……」
ん?きれい?
アホか、この部屋のどこが[きれい]なんだ?
城崎のやつ、よくこの部屋に入って行けるな……そう思い、改めて母の部屋に目を向けた。
「おぉう、これ待ってた。ありがとー」
母は部屋の真ん中で椅子に胡座をかき、城崎からビニール袋を受け取って喜びの声をあげたが、どことなく元気がない。
「んー……後どれくらい?少し根詰めすぎじゃねぇか?何日か延ばしてもいいぞ、締め切り」
「うー……いや、いい。へーき、明後日には仕上げる。細かいのは上げたから確認してくれる?」
母はへらりと力なく笑顔を作った。
城崎は「はい、はい」と二つ返事で机に向かい紙を数枚手に取った。
母が小さく息を吐く──ここまで疲れている母は珍しい。
延ばせる締め切りなら延ばして貰えばいい……そう思って俺は顔をしかめた。
「ねぇ、留衣、あれって天使かなぁ?」
麻琴が俺の隣でヒソヒソと話し掛けてきた。
その言葉で初めて部屋を占領している物に視線を移す。
窓一面ほどのキャンパスには其々青1色と緑1色が塗られ姿の違った人型が描かれている。
一つは双翼、もう一つは片翼の人型だ。
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