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これはもう避けられぬ闘い
20160514
「痛いよう、痛いよう」
なんて、子供みたいな泣き言も冗談では無い、右頬にそっと手添え、混雑している夕方の『中の橋商店街』を進む、一刻も早くDr.に会うためだ。
「ぅオレだ、ゴロチンだ」
まいった、まいった、こればっかりは本当にお手上げだった、ミッションどころか、昼寝もおやつも、総てダメ、出来ない、美味しくない、全く集中力でない、これは緊急事態だっ。
「ダメじゃないの、こんなになるまで放っておいてさ」
やっとこDr.の治療を受けられてホッと一息着いた、Dr.は意地悪そうに目を細め続けた。
「歯肉炎だわ、全部抜けちゃうよ、歯ぁ」
うへぇ、夢でなら何度か見たことある、歯がポロポロポロッと全部抜けていく悪夢、痛みこそ無いが、恐怖心、不安感は本物だ、朝起きて夢で良かったと胸をなで下ろすのだが、今日は正夢となったか。
「どくたぁ~、なほして」
恥を忍んで、開きっ放しの口で哀願した。
「さ~て、どうしようかしら」
医者ってヤツは、困った時にしか会わないからか、オレってすっかりヘタレキャラ定着!?歯茎のズキズキがオレの心音と呼応する。
「ふぅ、取り敢えず、麻酔打つからアーンして」
注射も大嫌いだが、今は歯茎の痛みが勝る、存分にやっちゃって下さい。
Dr.の顔が妙に近い、マスクから漏れる吐息が頬を擽る。
眼と眼があっても気にもせず、照れるのはオレだけ。
チクッと小さな痛みの後にジューっと何かが染み込んでくる感触、それを数回繰り返すと痛みがどんどん無くなってきた。
その内口の半分が痺れてきて、感覚が消えると、Dr.は小さな金属製の器具を患部に突き刺し、
ガリ、ガリガリ、
ガリガリ、ガッ、ガリ、
次第に力を入れながら、
ん~っガッ、ん、ん、ガリ、ガッ、~ガッ
ど、どうなっているのか?
痛みこそ無いが、頭蓋骨に響く振動は尋常でなく、歯が抜けやしないかとヒヤヒヤしながらも、行く末をDr.に委ねるしか無かった。
患部周辺の歯の根っこを全部ガリガリやると、Dr.は額にうっすらと輝く汗をそのままに、徐にマスクを外しニコリとして言った、やり切った感ある爽やかな笑顔で。
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