これはもう避けられぬ闘い

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「汚い歯、あと5回これやるからまた来てね」 く、くそお、綺麗な歯なら歯医者になど元々行くもんか。 でも、まぁ痛みもすっかり無くなったし、この際、全部の歯のクリーニングをしとくのは良いかも、また腫れたらヤダし。 「それからゴロチン、今夜また痛みが出ると思うから、寝付けないでしょ、一緒に飲みにでも行かない?」 「ん‥‥」 Dr.は後ろ向いて、治療器具を片付けている、白衣でガードした気丈な背中が一瞬か細く見えた。 「フッ、いや、やめておこう、今夜は早く寝るよ」 顔を伏せ気味に彼女は言った。 「そっか、じゃあ痛み止め出しておくわね」 「それも大丈夫だ、オレはクスリも苦手でな、フッ、じゃあまた来る」 そう言い捨てて、診察室を後にした。 「あ、ゴロチン、んもう」 ハレハレ~ハレハレ~ 何処かで誰かがまた歌っていた、中の橋商店街は今日も賑わってやがる。 「まあったく、Dr.のヤツったらいつもオレのこと子供扱いしやがって」 脳裏をよぎった赤いワインの吐息を、この喧騒の波に流す。 さあて、夕飯でも買って帰るかな。 そう思うと、魚屋から香ばしい焼き魚の匂いが漂ってきた、鰆の西京焼きだった。 「さあ兄ちゃん、美味いよ、買ってって」 「あ、じゃあ一つ下さい」 だみ声に釣られてしまったな、白身魚は大好物なり。 それから帰宅して、夕飯を食べ終えるくらいの頃だった。 あれ、なんか歯がズキズキする。 治療を終えた右上の奥歯だった、その痛みは次第にハッキリと強くなり、気にせずにはいられない程、そして間もなく我慢が出来なくなってきた、当初の歯肉炎を超える激痛になった時、オレは思った。 「痛い、痛たたた、痛みがぶり返した?それ以上だ、Dr.はこの事を言っていたのか」 すると携帯の電話が震えた。 「もしもしゴロチン?」 驚いた、Dr.だった。 「ど、Dr.~」 「治療の痛みなの、麻酔切れたから、しばらく激痛よ、ウフ」 楽しんでないか?しかし、仰る通り、絶対絶命を味わっていた。 「診療所のドアの所に痛み止め、置いてきたわ、ちゃんと飲みなさい」 「はい、Dr.、ありがとう」 「いいわ」 駆け足で、クスリを取りに行った。 トホホ、これが後5回もあると言うのか。 貴公も気を付けた方が良いぞ 美味しいモノの落とし穴に。
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