15人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
「汚い歯、あと5回これやるからまた来てね」
く、くそお、綺麗な歯なら歯医者になど元々行くもんか。
でも、まぁ痛みもすっかり無くなったし、この際、全部の歯のクリーニングをしとくのは良いかも、また腫れたらヤダし。
「それからゴロチン、今夜また痛みが出ると思うから、寝付けないでしょ、一緒に飲みにでも行かない?」
「ん‥‥」
Dr.は後ろ向いて、治療器具を片付けている、白衣でガードした気丈な背中が一瞬か細く見えた。
「フッ、いや、やめておこう、今夜は早く寝るよ」
顔を伏せ気味に彼女は言った。
「そっか、じゃあ痛み止め出しておくわね」
「それも大丈夫だ、オレはクスリも苦手でな、フッ、じゃあまた来る」
そう言い捨てて、診察室を後にした。
「あ、ゴロチン、んもう」
ハレハレ~ハレハレ~
何処かで誰かがまた歌っていた、中の橋商店街は今日も賑わってやがる。
「まあったく、Dr.のヤツったらいつもオレのこと子供扱いしやがって」
脳裏をよぎった赤いワインの吐息を、この喧騒の波に流す。
さあて、夕飯でも買って帰るかな。
そう思うと、魚屋から香ばしい焼き魚の匂いが漂ってきた、鰆の西京焼きだった。
「さあ兄ちゃん、美味いよ、買ってって」
「あ、じゃあ一つ下さい」
だみ声に釣られてしまったな、白身魚は大好物なり。
それから帰宅して、夕飯を食べ終えるくらいの頃だった。
あれ、なんか歯がズキズキする。
治療を終えた右上の奥歯だった、その痛みは次第にハッキリと強くなり、気にせずにはいられない程、そして間もなく我慢が出来なくなってきた、当初の歯肉炎を超える激痛になった時、オレは思った。
「痛い、痛たたた、痛みがぶり返した?それ以上だ、Dr.はこの事を言っていたのか」
すると携帯の電話が震えた。
「もしもしゴロチン?」
驚いた、Dr.だった。
「ど、Dr.~」
「治療の痛みなの、麻酔切れたから、しばらく激痛よ、ウフ」
楽しんでないか?しかし、仰る通り、絶対絶命を味わっていた。
「診療所のドアの所に痛み止め、置いてきたわ、ちゃんと飲みなさい」
「はい、Dr.、ありがとう」
「いいわ」
駆け足で、クスリを取りに行った。
トホホ、これが後5回もあると言うのか。
貴公も気を付けた方が良いぞ
美味しいモノの落とし穴に。
最初のコメントを投稿しよう!