犬達は夜桜の下に吠える

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この桜は普通と違う、一見してこの世界のモノでは無い事が分かった。 闇に咲き誇るそれは、ただならぬ妖気をかもし出して、素人が見れば一瞬で魅了させられる美しさをしていた。 徐にグラスに灌がれた透明な液体が目前に差し出された。 ヤバいな、これを飲まないとオレがエージェントの犬だと疑われてしまう、ただの酒なら何の問題も無いが、これには相当ヤバいモノが混じっているに違いない、例えば洗脳薬とか。 フッ、オレはグラスを手に取り、目の位置より高く掲げた。 「世界平和に乾杯」 そして一気に飲み干す、躊躇うな、顔に出すな、今、飲みを止めれば気づかれる、全てが終わる。 「プハーッ、これ旨っ」 「ほう、イケる口ですな、ささもう一杯どうぞ」 オレの長年のプロの勘が、この酒はやはりただの酒じゃ無いと警告する、もしかするとこの妖桜に関係が有るのかもしれない、だとすると最早手遅れか‥‥ 呑む程に気分は良くなり、少し肌寒かった夜風が心地好さに変わる、それ以上にこの酒の美味さはなんだ、口に含むと芳醇な香りが鼻腔に抜け、喉越しを通る滑らかで爽やかな味わい、コクが有るのに飲みやすい、飲んでも飲んでも飽き足りない魔性の酒、そして、美しき桜の巫女が隣に座り、誘惑、いや本当にもう飲めませんって、全く困ったな、ゴクゴク‥‥。 気を付けろ、罠だっ!心が警鐘を鳴らすも、いつの間にかオレは奴等の策略にまんまとはまってしまった。 美味すぎるーおかわり! どのくらいの時間が経ったのだろうか、そして、オレの使命はなんだっけ?なにもかもを捨て去り、残った物はポテチ一枚無い、でもそれでいいんだ、このまま平和に眠れればいい、何も考えなくていいんだ、オレはもう疲れてしまった、そう心が闇に堕ちようとした時だった。 同僚を見つけた、オレと同じ犬、コードネームOリハラと呼ばれる男だ、かなり腕の立つ男Oリハラは国立大出のインテリジェンスエージェント、最近好きなアニメはガルパン、新潟県出身、そのOリハラが不様に横たわっているではないか。 「おい、大丈夫か、どうしたんだ」 「オレは辞めないぞ~辞めないぞ~」 何か訳の分からない言葉を繰り返すOリハラをオレはなんとか秘密基地まで運んだ、そして二階の会議室にOリハラを隠した。 「お、おれはもうダメだ還る手段が無い、だがお前はまだ還れるんだ、さあオレを置いて行けー!」
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