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俺達が入ったのは、佐野に教えてもらった小料理屋だった。ここは、2階があって、座敷席が、個室になっているらしい。運よく、そいつがひとつ空いていた。
「梶尾は、小粋な店を知ってるんだな。」
「来たのは、初めてですよ。友達に教えてもらったんです。」
「そうか。その友達に、感謝しなくちゃな。二人きりになれる場所を教えてもらったんだから。」
「そうですね。話をするには、うってつけです。」
しばらくは、注文した料理を肴に酒を飲んでいた。小腹も満たされて、落ち着いた頃、本題を切り出した。
「課長…これからする話は、大事な話です。」
「相談事だって、言ってたな。心して、聞こう。」
「相談は、俺達のことです。」
「私達のこと?」
「はい。この前のことです。それについての俺の正直な気持ちを話します。
俺は、有栖川夏蓮という人に憧れています。あなたのように、自分の意見や考えをしっかり持ってる人を尊敬してます。
そんなあなたから、彼氏になって欲しいと言われて、嬉しくないわけありません。だから、あなたの気持ちを受け取ってもいいと思っています。
ですが…ひとつ条件があります。」
「どんな条件なんだ?」
「簡単なことですよ。この間、俺に、彼氏になることを、強要しましたよね。上司命令だって言いましたよね。あれ、取り消してください。
あんなのは、はっきり言って、ルール違反です。職権乱用以外のなにものでもありません。
俺と付き合いたいのなら、取り消してください。そして、あなたの本当の言葉で、俺を納得させてください。」
「納得させられたなら、付き合ってくれるのか?私の彼氏に、なってくれるのか?」
「俺も、男です。二言はありません。」
言い切って、まっすぐ見据えた俺の瞳には、照れ臭そうにしている課長が映っていた。
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