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「…梶尾、お前、今日から、私の彼氏な。」
ブフッ!!
飲み掛けの珈琲を、吹き出してしまった。
「…ゴホッゴホッ。…か、課長…今、何て言いました?
…お、俺の耳には、『お前、今日から、私の彼氏な。』って、聞こえましたが。」
「ああ、言ったよ。」
「…い、言ったよじゃないでしょ!」
突然の言葉を、自分の中で消化できるまでの数十秒、慌てふためく俺のことなど眼中にないかのように、目の前にいる俺の上司、有栖川夏蓮は、ゆっくりと紫煙を燻らせていた。
「確認してなかったのだが、もしかして、彼女がいたのか?そうなら、申し訳ないが…。」
「…い、いませんよ。…今は、フリーです。」
「なら、問題ないじゃないか。」
夏蓮は、ほっそりとした指で挟んだ煙草の火を、そっと灰皿の隅で消すと、まっすぐ俺を見た。
俺の頭は、パニクってる。それでも、必死に、今の状況を把握して、本来あるべき二人の関係に戻ろうと、めぐるましく働いていた。
どこが問題ないんだろうか…?
俺が、フリーなら、問題ないって、短絡的だ。
フリーでいいなら、他にもいるじゃないか…。
何で俺なんだ?
「あの、お言葉を返すようで申し訳ありませんが、ものすごく問題は、あると思いますけど…。」
おずおずと進言する俺に、彼女は、畳み掛けてきた。
「なあ、梶尾。私が、彼女では、ダメなのか?」
「そういう訳ではないですが、俺は、単なるあなたの部下の一人に過ぎないんですよ。
なんで、俺なんですか?そんなに、接点あった訳じゃありま…。」
そこまで言った瞬間、彼女は、まっすぐ俺を見て、優しげな口調の中に否定を許さない言い様で、遮った。
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