副会長様と夏休みと、

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見たことのない表情の祥司さんに緊張をしながら、大路先輩の後を恐る恐るついて部屋の中に入ると、こちらに背を向けて立つ白衣を着た医者と、俯いて目元をハンカチで抑えた茜さん。そして。 「…いせ…っ」 頭に包帯を巻いてベッドに身体を起こした伊瀬がぼんやりとこちらを、…正確には大路先輩の顔を眺めていた。 その表情に、何故か首筋がぞわりと震えた。 「伊瀬君。今入ってきた人は誰か判るかい?」 「あ?…大路だろ、…それに」 やっと自分へと向けられた視線が重なり、それなのにすぐにつまらなさそうに細められた金色の瞳はあっさりと逸らされてしまった。 「知らん。誰だよそいつ」 「…っ?!」 知らない。こんな、なんの熱も持たない伊瀬の瞳を。こんな目で、自分を見る伊瀬なんて。 「い、伊瀬…っ?」 「木崎様、ストップ」 「じゃあ、伊瀬くん。もう一度さっきの質問に答えてくれるかな。 君の名前、学校と学年クラス、年齢」 思わず駆け寄りそうになった身体は大路先輩の手によって遮られ、続けられた医者の言葉に面倒くさそうにため息をついた伊瀬の言葉に、目の前の大路先輩の身体がびくりと震えた。 「伊瀬龍司、東雲学園高等部2年E組、17歳」 いま、自分は、どんな顔をしているのだろうか。
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