副会長様と夏休みと、

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「どう説明したら分かりやすいですかねー。 あ、そうだ木崎様。 祥司さんは社長の息子ですが、いま任されている部署で十分満足しているので、会社を継ぐ気はありません」 「…はい」 どうやら、会社の社長だという設定で説明してくれるらしいが、元々の話とあまり変わらないような…まあいいか。 大路先輩の話を纏めると、社長は、幹部の中から山田さん(仮)に次期社長になって貰おうと既に決めていて、祥司さんはとっくに跡目争いとは無縁となっている。 …にも関わらず、山田次期社長と仲の悪い奴等は、山田さんが社長になると都合が悪く、そこで、若くて丸め込みやすい………ように見える祥司さんを社長に据えて、自分達は好きに振る舞おうと画策してるという。 また、それとは全く無関係に、組で禁止されている法に触れるお薬を取り扱っていた一部の組を炙り出したのが祥司さんで、そのせいで破門された元組員の恨みを盛大に買っている。らしい。 「ってな具合に祥司さんはそこそこ敵が多くて、今回の伊瀬の件もそれ関係だと思われます」 「…そんな話を、私にしてもいいのですか?」 「木崎様がこの先伊瀬と一緒にいるつもりなら、最低限このくらいの知識は入れておいた方がいいですからねー。知っているのと知らないのでは、いざと言うときの対処が変わりますから」 にっこりと笑う大路先輩の表情は、笑っているのに何かを探るような表情にも見える。 正直、急にこんな話をされてもうまく飲み込めない。…それでも。 「覚悟という意味なら、私にはまだ判りません。ですが…伊瀬の側には居たいです。伊瀬が何を思っているのか、何をしたいのか。伊瀬の事は、知りたいです。 いま、言えるのはそれだけです」 伊瀬が好きで、側に居たい。この先、自分が伊瀬に何をできるのか、まだ何もわからないけれど、それだけは変わらない。 「じゃー、伊瀬の事、宜しく頼みますね」 伊瀬が居ない今のうちに触っときます。と、笑いながらぐりぐりと頭を撫でられていると、伊瀬の病室の扉がゆっくりと開き、顔色の悪い祥司さんに手招きをされた。 「二人とも、中に入って貰えるかな?…ただ、なにがあっても落ち着いて振る舞ってね」
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