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☆
電話の着信で目が覚めた。
時間を見るとNYの時間で夜の8時。
相手はノブアキ。
夕飯にはいい時間だ。
NYがよくわからない僕のために、彼がマンハッタンにある宿泊先のロビーに来てくれることになった。
大きなソファの片隅に座って待っている間、ふいに東京での出来事が頭に浮かぶ。NYにこようと思った大きなきっかけにもなったこと。
ミエとの出来事。ちょうど2週間前のことだった。
「幸ちゃん。さっきの話なんだけど……」
からみつくようなミエの視線にいやな予感を感じた。一緒に行った撮影仕事の後、ご飯を食べようとミエに誘われ、表参道のおしゃれなレストランにはいった。店内は適度に混んでいて薄暗く、そういう話をするのにはちょうどいい場所だったのかもしれない。いつもと違う重たいミエの雰囲気に、逃げ出したい衝動にかられたがもう遅かった。
「私、幸ちゃんのことが……。好き……」
きた……。出た……。脂汗……。
ミエの顔が女の顔になっている。僕が見ていられない、見たくない顔。
思いつめたような女の顔を直視できない。
「僕は……。ごめんミエのことはそういう風には見れない」
しぼりだすように、ことばを発する。
「誰か、好きな人でもいるの?」
「……。わからない」
そもそも、僕は女の人を好きになれるかどうかもわからない。
「でも……。ちょっと気になっている人はいる」
「誰なの? 誰のことが気になってるの?」
私。ずっと幸ちゃんのことが気になってた。いつも気にかけてくれるし優しいし、幸ちゃんも私に気があるんだと思ってた! じゃあ、いったい幸ちゃんの気になる人って誰なの?
ミエはビールをいっきに飲み干すと矢継ぎ早に言葉を放つ。
あ~。やっぱり女は面倒くさい。まるでミエのことが好きじゃないってことが、大きな罪を犯しているような気分。
仕方なくミエのやけ酒につきあったけど。
僕が気になってるのは、高校の同級生で、それは男で、ノブアキだってことは、このときはまだ言えなかった。
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