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「なんだ。お前みたいのも朝の珈琲を飲むのか。どこの豆が好みだ?」
「別に。インスタントでいい。珈琲は珈琲だ」
捜査官は俺の上に乗ったまま、小馬鹿にしたように笑う。
「なんだ。なにがおかしい」
「いいや。可哀想だと思ったんだ」
カッとした。そりゃあこいつからすれば可哀想だろう。上質な珈琲などわからない。育ちも悪い。誰かを殺すしか能がない。
「なら今すぐ俺の上からどけよ。サドクソ野郎」
「いや。可哀想なのは珈琲だ」
俺は“何がだ”と声を発しようとしたが、駄目だった。一音も出せなくて、頭の中の思考が黒い線だらけになって、ぐちゃぐちゃに円を描き、まとまらなくなっていた。
ふわりと煙草の臭いがした。あいつめ、俺の上で生意気に煙草なんて吸ってやがるのか。暗闇の中で奴のスカした声。
「珈琲でも飲んできてはどうだ」
そんなの、飲めるもんなら。
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