上ノ一

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「ごめん。ハンカチ」 「いいよ。それより家は近いの?」 「あ、うん」 「じゃあ、送ってくよ」  よいしょ、と彼はよしのの自転車を引き起こした。 「え、でも……露木の家は?」 「僕はまだもう少し先だけど、同じ方向だし、……っていうかさ」    もう一度よしのの前に屈んで、彼は言う。 「……時間は経ったけど……そんなこと気にする相手?僕は」  その見つめる眼にどきりとしてよしのが俯くと、彼は顔を曇らせる。 「それとも今もう他に誰か……」  よしのが首を振ると、良かった、と彼は微笑んで手を差し出す。  言われるまでもなく、ずっと忘れられずもう一度会いたいと思っていた相手で、こんな時に偶然会えて嬉しいはずなのに、なぜだか心が浮かずためらいながら握った手は少し冷たく感じた。見上げた彼の母親によく似た顔はもともと色白だったが 「じゃ、行こうか」 今は向こう側が透けて見えそうなほど青白く見え、古い蛍光灯のせいだろうかと思った。
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