上ノ一

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上ノ一

 コンビニのおにぎりの棚の前に立っていると、よう、と声をかけられて眞里絵は振り返った。 「あ、……お疲れさまです。海棠課長も夕飯ですか?」 「……というか、飯なんか帰ってからでいいんだが、部屋に居るのが暇でな。俺は連絡待ちで残ってるだけだから」  片手をポケットに突っ込んで手持ち無沙汰に彼は言う。 「支社のメールサーバー、まだ復旧しないんですか?」 「まあ、現地に今行ってるから、そのうち直るだろ」 「……ってこの前は十時頃までかかったんでしょう」 「明日までに直りゃいい。今日は別に予定もねぇしな」  ちらと彼の方を見て眞里絵はカゴを持ってレジに向かう。 「あ、海棠課長は?何か買いますか」 「……じゃあコーヒー、一緒に買ってくれ」  店の外に出て缶コーヒーを渡すと、受け取って彼は空を見上げる。 「どうしました?」 「嫌な月だな」  見上げると、暗い雲間からライトで照らしたように時折おぼろげな月が顔を覗かせ、またすぐに消える。月に叢雲、というのはああいう様子だろうか、と思う。新緑と花の匂いを含んだ風もどこか生温かくまとわりつくようで、空気が重い。 「お前は?遅くなりそうなのか」  聞かれて、いえ、と眞里絵は首を振る。 「あともう少しで終わるんですけど、お腹減ったから」 「帰る時声かけろよ。送れたら送ってやる」 「え?だって別に今日は……」  彼はもう背を向けて先を歩いており、何を感じたのだろうか、と思いながら眞里絵は後を追った。
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