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上ノ二
「……で、そこに取引先名。……また」
入力ミスをしたよしのに山野は大きくため息をつく。
「もう、さ、今時の子ならパソコンぐらい普通に出来るでしょ?何でそんなに躓くかな……」
「……すみません」
違う。不慣れなのではなくて、もうとっくにやり方を覚えている書類を作成するのに、いちいち隣で睨みつけられるので手元が狂ってしまうのだ、とよしのは心の中で思う。
「ったく、使えないんだから……」
営業二課の先輩アシスタント山野美由紀は今年三十歳で二人の子持ちらしい。綺麗でかわいいママでいいよね、と昼を一緒に過ごす女子社員達は言っているが、外でこれなら家の中ではもっと当たりちらしているのではないだろうかと思う。
GWに会った大学の友人達に話したところ、育児のストレスのはけ口にされているんじゃないかと皆が言っていた。何にしろ、この課のアシスタントは自分と彼女の二人で逃げ場が無いのが辛い。
「もう一人入ったら少しは仕事が減ると思ったのに、これじゃ余計大変に……」
「山野さん。ちょっといい?」
山野が嫌味を言いかけた時、横から声をかけたのは総務課の女性だ。確か名前は……。
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