桜咲く丘

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退院する前日 千鶴がぽつりとつぶやいた 「もう七海ちゃんには、会えないんだね……」 「なに言ってんの? 千鶴だって絶対元気になるよっ!!」 千鶴の言葉に、大きな声を出して否定する 千鶴も、私も、目に涙がたまっていた 一年もいれば見えてくるものがある 千鶴は助からない 延命というよりは、対処療法で穏やかに過ごしているだけだと、私にもわかっていた それでも、否定する私の言葉に頷いて千鶴は笑った 「ありがとう」 夕日に照らされて笑う姿が儚くて、消えてしまいそうな千鶴 その手を握って、大丈夫だと言い続けた 退院当日 迎えを待つ私に、千鶴が話しかけてきた 「七海ちゃん 私、死んだらあそこに眠るの」 病院からそう遠くない丘 そこはお墓にもなっている場所 中心ある桜の老木が、満開の花を咲かせていた 「またそんなこと言ってっ 大丈夫って言ったじゃんっ ねぇ、約束しよう?」 「やく、そく…?」 「そう。10年後、あそこで待ち合わせ 私も、千鶴も大人になってるんだから 約束だからね」 一方的な約束 それでも、千鶴は頷いてくれた 指切りをして、私達は別れた 去っていく私に手を振る千鶴は、出会った頃のような、柔らかく優しい笑顔を浮かべていた
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