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『そう言っても気持ちは別物だと思わない、デスか?』
晴の勢いに押されたのか、小野原の語調が多少乱れた。しかしブレた発言はすぐに修正され、振り出しに戻る。
わかっちゃいるけど、わからない、わかりたくないと。
小野原の主張は、理解できなくもない。
この車はクラシックカーでも、値段的に高額なものでもない。中古車情報誌で探すことも難しいほど古い大衆車だ。
高額で取り引きされるクラシックカーで、相手から提示された価格に根拠があると認められれば、高額の賠償金が支払われるケースもあるが、今回は頑張っても15万に満たない金額だ。額面では納得はいかないだろう。
それ以前に小野原は原状回復を望んでいる。
最初は金額を釣り上げようとしているのか?新車要求の駆け引きか?とも勘ぐったが、いつまで経ってもそれを言わない。つまり、そこが小野原の落としどころではなく、本心で原状回復を希望しているということだ。
価値と愛着は別次元の話で、賠償金の支払いが多いからそれで話が付くわけでも、少ないから逆に愛着が沸くというわけでもない。執着なら生まれそうだが…
愛着ある車だから「元に戻してくれ」と言われることはある。どうしようもない憤りをぶつけられることはある。そう言う人の気持ちもわかる。
新車要求ではなく、原状回復を望む小野原も同様にこの車に思い入れがあるのかもしれない。
しれないが、所有者ではない。そして、こんなに淡々としている。でも今の『気持ちは別物』と言う小野原から出た言葉は“本心”のように思えてならない。
色々な角度から疑うことで、余計に分からなくなる。小野原が怪しくなる。見えない相手だからこそ不信感が生まれ、言葉を選ぶ余り、知りたい核心になかなか辿り着けない。
やはり、会うしかないかな…
相手が纏う空気に直に触れれば、積み上げた全ての疑問は解決できなくとも整理はできる気がする。
面談の方向で調整して話を終えようと、卓上カレンダーに手を伸ばしたところ、晴の前に座る田神が、机を囲うデスクパネルから顔を出した。
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