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「か、勘弁してくださいよぉ……」
今にも泣き出しそうな顔をして、か細い声を上げるも、夏樹は容赦なく彼の腕を引っ張り、件の部屋へと勇み足で進む。
散歩を嫌がる飼い犬を、リードを無理矢理引っ張って、その身を引き摺るような感じで、ようやく目的の部屋の前までやって来ると、ビクビクと怯えた表情の男に向かって、顎をしゃくる。
その仕草は勿論、「早く、ここを開けなさいよ」という、無言の圧力であり、彼もその意味ぐらい、直ぐに理解したものの、ここに来て、更に顔色を悪くし、大きく震え出す手元のせいで、中々鍵穴に鍵がささらない。
その鈍臭さと、肝っ玉の小ささに、夏樹は小さく舌打ちすると、苛々した手付きで、彼の手から鍵を奪い上げた。
そして、何の躊躇もなく鍵を開けると、勢いよく扉を引いた。
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