第一章 弐

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「あ。そう言えば、飲み物もありませんし、直ぐ目の前の自販機で、お茶でも買ってきます」 「ちょっと待って。そう言って逃げるつもりじゃ……」 「いいえ。今更、逃げるも何もありませんから」  夏樹が咄嗟に、彼の勝手な行動を引き留めようと声を荒げたものの、彼の困ったような、寂しげな表情を見れば、嘘を言っているようには思えず、そのまま、彼に自販機まで買い出しに行ってもらう事にした。  ガチャンッと重く響き渡る金属音が、まるで、外の世界と部屋の中の世界とを遮断するようで、何一つ音のしない静かな室内が、やけに息苦しく感じた。
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