第一章 弐

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「ううん。あんなの目の錯覚よ。子供の声だって、足音だって、きっと隣近所から聞こえて来ただけよ」  誰に言うでもなく、自分に言い聞かせるように小刻みに頭を振ると、気を取り直して大きな窓を開ける。  強く生温かい風がサァッと吹き込み、夏樹の長い髪をなびかせる。  静かな住宅街といえど、少し離れた所にある、幹線道路を走る車の音や鳥の囀り。  そして、近隣から聞こえる物音や、犬が吠える声。  生きている者達が織り成す音の全てが、何故か、夏樹の心を安心させてくれた。
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