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『ま・た・ね』
口パクで倉橋に向けて、そう告げた後、これでもかというくらい口角を上げ、小憎たらしく真っ赤な舌を出した。
“ヤバイ!”
倉橋がそう思うや否や、愛ちゃんはやってくれた。
組み合わさった何かが大きな力で外されたような音。
皮や肉、筋線維が無理矢理引っ剥がれ、ぶち切られる音が響いた。
滝のように流れ落ちる血液。
出血多量の為か、それとも喉に休む間もなく垂れ流れて来る液体のせいで息が吸えない為か。
それともショックのあまりか。
空洞になった二つの穴から零れ落ちる事の出来なくなった涙の代わりに、赤い滴が彼の頬にいくつもの筋を作りながら、小川の全身から力が抜け、体を支えていた佐々木に覆いかぶさるようにもたれ掛かった。
それが意味するのはただ一つ。
愛ちゃんが消える間際に、また一人獲物を狩っていったという事実だけである。
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