第六章 壱

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 彼女の頭の中で、ヒステリックな母親の声と共に、与えられ続けた痛みが蘇る。  そして、少女の存在を否定する冷えた眼差しが、彼女を捉えて離さない。 「ンンンッ! フンンンフンンアーッ」  恐怖に怯えたような顔で、大粒の涙を流しながら必死に何かを訴える。 「『ヤメテッ! いい子にするからーっ』か。うんうん。物わかりがいいねぇ。そうだよ。オジサンは、お前を一人前の女にしてやるだけなんだからね」  満足気な声を出す男は、下卑た笑みを浮かべる。 「大丈夫、大丈夫だよぉ。ほぉら、お前もいつも言っていただろう? 虫も幼虫から蛹。サナギから成虫――大人へと成長し、強くなっていくように、お前も、オジサンの手で成長させてあげるだけだから」  猫なで声を出し、あやすように言い聞かせる。
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