第六章 弐

9/14
前へ
/715ページ
次へ
 淡々と厭味を語る一之瀬の声には、怒気が含まれている。  電話口からでも佐々木は、彼の冷ややかで蔑んだ目が、たやすく想像出来、何とも複雑な気持ちになりながらも苦笑するしかなかった。 「でも、夏樹を別の場所に移動させると言っても、先輩が一人でする訳じゃないんですよね?」 「ああ。私だけではない」  マスコミに嗅ぎつけられ、色々ある事ない事を書き立てられる前に、証拠を捏造し、しっかりとした記者会見の場を設けて、事件に対する上っ面の終止符を打つまでは、変に探られる訳にもいかない。  外部に気付かれることのないよう、なるべくひっそりと隠密に事を運べと指示されているのだが、佐々木一人で任務を遂行するのは認められていない。  護送中、運転している佐々木は背後にばかり注意する訳にもいかなければ、両手がハンドルでふさがっている。
/715ページ

最初のコメントを投稿しよう!

647人が本棚に入れています
本棚に追加