第六章 参

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 人間の身体は、常に動くことで正常な機能を保てるような構造になっており、長時間同じ姿勢で固定することは肉体的にも精神的に大きな苦痛が伴う。  ある学者が、二十代歳の男女を対象に長時間座位の実験をしたデータによれば、全く同じ姿勢を保つ限界は、二十分から三十分だという。  彼女がここに連れて来られてから、何十分……否、ゆうに一時間以上は経っているだろう。  にもかかわらず、彼女は微動だにしないのだ。  シンと静まり返った取調室の中を、監視の為に扉についた窓口から覗き見るだけで、誰も足を踏み入れようとしないのは、その異常さと不気味さ故である。
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