第六章 参

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 遠くの方から革靴の硬い足音が夏樹の元へと近付いて来る。  規則正しく、乱れることのない音が部屋の前で止まる。  ドアノブに鍵を差し込み、ガチャガチャと金属音が鳴り響けば、静かに扉が開けられる。  普通の人間であれば、いくら無関心を装っていたとしても、誰が入って来たのか確認する為に、視線ぐらいは僅かでも動かすのだが、夏樹は相変わらず人形のように固まったままである。  特殊な保護施設で向かい合った時から、彼女の性格も、彼女を取り巻く雰囲気も変化している事には気が付いていたが、今、目の前にいる夏樹優子という女性からは、人の匂いすら感じられない事に言葉を失った。
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