第六章 参

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 とりあえず、これから直ぐに移動しなくてはならない事を伝えようと、ゆっくりと、テーブル越し佐々木が彼女の正面に座るものの、何かを聞いてくるどころか、全く反応が無い。  どうしたものかと、頭をガシガシ掻いた後、佐々木は聞いているか聞いていないか分らない状態の夏樹に向かって話しかけた。 「夏樹さん。貴女が犯人ではない事を分かっている上で、これからする非礼を許してください」  魂の入っていない、抜け殻を思わせるような彼女に対しても、誠意ある対応を心がけようとする佐々木。  全く色を映さない瞳の奥深くに、少しでも彼女の片鱗が残っているのではと、探るように覗き見るが、一点の光もなく、真っ黒に塗り潰されたような闇を確認するだけ。  
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