第二章 参

15/15
648人が本棚に入れています
本棚に追加
/715ページ
 そして、野生の勘とでもいうのか。  今まで、相手の正体を知らずに逃げた事など無いのだが、何とも言いようのない嫌な予感と、言い知れぬ恐怖が自分を襲い、あの場から一刻も離れなくてはという一心で、一歩も足を踏み入れる事なく走り去ったのだ。  そして、その後も続いている住人達の怪死を見れば、自分の判断は間違っていなかったのだと確信していた。 「正体の解からないもの程、怖いものはねぇ……」  実社会でもそうだが、理由なき犯行程、予測も抑止も不可能で厄介なものなのだ。  飯田は、一番不安な立場である彼女の事を思い、余裕のある態度で冗談めかした事を言ってはいたが、彼女の手助けをするにあたり、自分の命も投げ出す覚悟で腹を括ったのだった。
/715ページ

最初のコメントを投稿しよう!