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「―――シちゃったんだ……」
「うん、シちゃった」
それは、休日の昼下がり。爽やかな風が吹き抜けるカフェのオープンテラスで交わされた会話。
大通りから少し離れた自宅マンション近くにあるお気に入りのカフェは、緑に囲まれ都会の雑踏から切り離されたオアシスの様な空間。私が唯一安らげる場所だ。
でも、グルメ雑誌に紹介されて以来、来店客が倍増。静かにお茶したい常連の私にとっては、ハッキリ言っていい迷惑。今日も少し遅いランチを楽しむ若い女性で賑わっている。
隣のテーブルから聞こえてくるバカ笑いにため息を付き視線を落とすと、街路樹が風に吹かれ新緑の葉がサワサワと揺れ出し、テーブルの上の木漏れ日も微かに揺れる。
どんなに隣の席がうるさくても、やっぱりこの雰囲気は捨てがたい。
耳障りな雑音を無視してシナモンティーを口に含んだ時、前の席に座っている会社の同期、森下佑月(もりした ゆづき)が話し出す。
「二次会の後、二人の姿が消えたからまさかとは思ったけど……相変わらず手が早いね」
彼女とは入社以来、もう八年の付き合いになる。私の恋の遍歴を全て把握してる唯一の人物。そう、あの人との恋以外は全部知ってる。
「で、どうだったの?部長のテクは?満足できた?」
「うん、まあまあかな……」
「一週間前に異動してきたばかりの部長と、もうそんな関係になるなんて……で、今度は本気なの?」
佑月の心配そうな顔を横目に、私は大げさに笑ってみせる。
「まさか……本気なワケないでしょ?」
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