第1章 愛なんていらない

6/23
前へ
/320ページ
次へ
「うぅん、もう慣れたから平気だよ」 ほんの数ヵ月前まで常連客しか来なかった静かなカフェは、オーナーの白石さん夫婦二人だけでひっそりと営まれていた。 「正直困惑してるんだ。ここまでお客さんが増えると僕達二人じゃとても追いつかなくて……」 「じゃあ、アルバイト雇ったら?」 「うん、一応、募集はしてるんだけどね。なかなか来てくれる人がいなくて……それで、甥っ子に手伝ってもらおうと思ってさ」 三十代半ばのマスターにそんな大きな甥っ子がいたなんて初耳だ。 「甥っ子って、いくつなの?」 私がそう言ったのと同時にカフェのドアが開き、一人の若い男の子が入って来て店内を見渡す。そして、その視線はゆっくりカウンターに向けられた。 自然と彼と目が合い私達は数秒間見つめ合っていた。一瞬の出来事だったのに、それはまるでスローモーションみたいにとても長く感じられたんだ。 綺麗な子―――それが彼に対する私の第一印象。 「よう、来たか!」 白石さんの声に、まさかこの子が甥っ子なのと目を丸くした。だって彼は…… 少しウェーブがかかった艶のあるダークブラウンの髪に、透ける様な白い肌。そして薄いブルーの瞳。その端正な顔立ちは、どう見ても日本人には見えなかったから。 「梢恵ちゃん、驚いた?実はね、この子は僕の姉の子で父親はイギリス人なんだ」 「じゃあ、ハーフ?」 「そう、今年二十歳になる白石蓮(しらいし れん)だよ」
/320ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1983人が本棚に入れています
本棚に追加