心の一部を、切り取る。

1/2
78人が本棚に入れています
本棚に追加
/78ページ

心の一部を、切り取る。

私の作品は、私の体の一部だと思う。あるいは、自分の子供のようなもの。 頭の中に浮かんだテーマがあって、それに沿った物語を書くとき、私は自分の身を一部切り抜く。それは、どこか遠い記憶の一部。それは、誰かへの思い。あるいは、なにかから学んだもの。 ノンフィクション作品は、事細かに書こうとしすぎて、物語として人に読ませる文章ではなくなってしまうことが多くて、何度も挫折したので、あくまでもフィクション。 そして、生み出された登場人物や作品を、育てていく。 私が、物語を書く上で強い影響を受けた作家さんが三人いる。今回は、そのうちの二人を例として挙げさせていただきたい。 まず一人目は、麻生みことさん。 彼女の作品に、高校で舞台脚本を書く主人公の話がある。主人公は、自分の周りの人達に仄かに湧く悪意を、その人にだけ効く毒として脚本に盛る。けれど、そうやって苦しんでいることを伝えたいのに、伝えたい相手が公演を観には来てくれなくて、自分に毒が返ってきてしまう。そんな話が一部に入っている。 私が盛り込むのは、悪意ではなく、大切な想いや感謝の意。特定の人に贈りたい言葉を、物語という形にして、自分じゃない誰かの言葉にすり替えて、不特定の人たちに読んでもらうために書く。 基本的には、本人にそれが「あなたへの思いを書きました」なんてことも、直接、「読んでください」とも言わない。その人が、読みたいと思ってくれて、能動的に読んでくれたとき、そこに何かを感じてくれたらと思って書くだけ。けれど、物語にしたいほどの思いは、私が温かい何かを感じたものだから、それは沢山の人に知って、感じて欲しいと思う。 それが、どれだけ日常的に近いものとして、感じ取ってもらえるかがすごく重要で。日常の中に、どれだけの幸福が詰まっているかなど、気付かない人が多いと思うの。どれだけの有り難さが溢れているかも。 そういう思いが、少しでもどこかの誰かに響いてくれたらいい。物語めいたものを書き始めた中学生の頃は、それが書き進めるきっかけだったような気がする。あまり覚えていないのだけど。
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!