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「やっぱ千夏の家に泊まる」
耳に髪をかけながら視線を逸らすと、遊馬さんは逃げた視線の先に回り込んだ。
「なんで?」
「熱が下がったんなら、私が居なくても大丈夫かなって」
「なんか料理作ってよ。腹減った。それに片手じゃ上手く着替えられないし」
「……無理」
「――なんで」
二度目のその言葉で、遊馬さんが私の手首を掴んだ。
「欲しくなる、から」
震える声は、情けないことにぽとりと落ちた。
「欲しくなっちゃう。――ウソでも良いから優しい言葉とか」
龍一のせいで、意外と私の強勢はもろくて簡単に穴があって壊れやすいのだと気付かされた。
今、このまま――遊馬さんの優しさに触れたくない。
これ以上は望んでいないから、お願いだから今日は一人で居たい。
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