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ソファの背もたれに浅く腰掛けて、にやにやしながら語る。
晶一は物心ついた時から母親というものに縁がない人生だった。だから自分の思慕が恋情なのかなんなのか、実際のところ自分でもよくわかってないんじゃないか、と時々思う。
晶一に心から甘えられる母親がいたら、何か変わっていたのだろうか。
「店に寄ったのかよ。お前さ、店で絶対上着脱ぐなよ。ワイシャツの上からでも、わかるんだよ。客商売なんだから、へんな噂でも立ったらどうしてくれるんだよ」
「あーはいはい」
面倒くさそうに応える。
「わかってるけどね。でも、そうも言ってられないんだろ?」
晶一が首をめぐらせてこちらを振り返った。
「最近、半グレのおかしな連中の溜まり場にされてるってきいたんだけど」
知っていたのか。俺は小さくうなずいた。
「ほんのちょっと前から急に不良が店に居座るようになったんだよ。今すごい勢いで客足が遠のいてて」
「顔がきくからなんとかしてやるっていう親切な人が現れただろ」
「なんでそこまで」
「どうせ裏でつながってんだよ。どうして先に俺に連絡してくれないかな」
ふっとうつむきかげんで一つ息を吐いた。
「ま、今さらしょうがないか」
俺は少し迷い、結局晶一に全てをうちあけた。
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