背中あわせ

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 晶一の通夜は家族だけで行った。  大きな葬祭場には夕方からたくさんの弔問客が訪れていたが、俺たち一家の借りた小さな会場だけはひっそりとしていた。  そこにひとりだけ、香典を持った弔問客が現れた。  喪服を来たパンチパーマの若い男だった。眉間に大きな傷跡がある。どう見てもカタギには見えないその男は「このたびは、ご愁傷さまで」とおりいっぺんの挨拶をしたあと、「世話になった舎弟たちから、兄貴に」と分厚い不祝儀袋を差し出した。  母さんが面くらいながら入り口でそれを受け取ると、男は一つ深いお辞儀をして祭壇の前へ進んだ。  白菊の中に飾られた遺影は、高校入学の時に撮った証明写真だった。それくらいしか晶一のまともな写真は無かったのだ。まだあどけない顔をしている写真の中の晶一は、心もちあごをあげてこちらを見下ろすようににらんでいる。  パンチパーマの男は見かけによらず礼儀正しい態度で厳かに焼香し、祭壇の脇に座っていた俺に黙礼した。それを見た瞬間――――俺は全身の血が沸騰するような怒りを覚えた。     
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