背中あわせ

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 椅子から立ち上がった。パイプ椅子がひっくり返る派手な音がした。憤然と出入り口に向かい、母が持っていた香典袋をひったくると、今まさに帰ろうとしていたその男に力一杯投げつける。斎場の廊下にヒラヒラと札が舞った。  男がぎらりと目をむいて俺を見た。  それでも恐いなどと感じるひまもなく叫んでいた。 「ふざけんな! なにが舎弟だ! なにがアニキだよ! 勝手なこと言うなよ。お前らが晶一のなにを知ってんだよ!」  そこまで怒鳴ると、初めて涙がこぼれた。  母さんがわっと膝を折って泣きだした。林田さんが奥からかけよってくる。 「あいつの弟は俺だけなんだよ! 俺だけが、あいつの本当の弟なんだよ‥‥」  言葉はみっともなく震えた。  男は何か言いたげな顔付きになったが、結局何も言わずにそのまま立ち去った。     
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