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からかうように言うのは、義兄の晶一(しょういち)だ。同い年なのに、二ヶ月先に生まれているから、俺の兄だという。
義父の連れ子だ。俺たちは中学三年の時に兄弟になった。
今でこそ、シングルマザーなんて珍しくないのだろう。でも、俺が小さい頃はまだ世間は偏見と過剰な同情に満ちていた。
息子の俺がちゃんとしなきゃいけないんだ。そして、世間の風評から母さんを守ってやるんだ。幼い時から当たり前のようにそう思っていた。
それはまわりに刷りこまれた価値観だったのかもしれない。
「秋則くんはいっぱい勉強して立派になって、ママを支えてあげてね」
俺たち母子に優しくしてくれる人たちはみんな決まってそう言った。
立派になれば母さんが幸せになれるなら、それは簡単なことだと思っていた。国立大進学、公務員試験合格。そして今度は二つ年下の職場の同僚と婚約。来月には結納の予定だ。
みんなに「ちゃんとしてる」と思ってもらえる人生を歩む。母さんに胸を張ってもらえるように。家族の幸せのために。
「なんの用だよ」
つとめて冷たく言うと、
「久しぶりに兄さんが来たのにつめたいのなー」
へったくそな棒読み台詞みたいだ。
「そのしゃべり方やめろって」
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