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人が足りないのだろうか、と心配になった。ここのところ、長くいてくれたバイトの人がたてつづけにやめていって、店の状況は苦しそうだった。
十時半に店のドアを入った。閉店準備に入っているはずの店内には、なぜか見知らぬ人が二人いた。
ひとりは髪の短い中年男で、シミ一つない糊のきいたコックコートに深緑色のコックタイを締めて、カウンターの中にいた。
母さんが新しく人をやとったのだろうか、と思った。
もうひとりは俺と同じくらいの年格好の少年で、姿勢悪くカウンター席に座っていた。髪の毛はまだらに金髪になっていて毛先は透けるようにぱさぱさだった。耳にピアスをいくつもあけていた。その一つはまるで弾丸に貫通されたみたいな大きな穴で、鳩目のような金属の輪をはめていた。こちらは絶対従業員にしてはいけないタイプだと即座に思った。
少年の前には空になったコーヒー茶碗があって、二人は俺が来るのを長い間待っていたのだろうか、と思った。
母さんはなぜか恥ずかしそうにそわそわしていて、
「秋則です」と二人に俺を紹介すると、ここに座って、とカウンター席を指さした。
俺が塾の鞄を隣の席に置いておずおずとそこへ腰を下ろすと、コックのおじさんはさっとキッチンに立った。
十分時、俺の前には料理を盛りつけたミートプレートが出されていた。
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