背中あわせ

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「ミラノ風カツレツよ。食べてみて」  糸のように切った紫キャベツの上に、丹念にのばされた仔牛肉がきつね色の衣をまとって横たわっていた。肉の真ん中には紙のように薄く切った輪切りのレモンにハーブを練り込んだバターが丸く切り出して乗せられている。てっぺんに飾られたグリーンの鮮やかなセルフィーユの葉が、一皿の雰囲気を上品にグレードアップしているようだった。  ああ、この人は本物のプロなんだ。俺はカウンターの中のおじさんを見た。中学生の俺にもそれを知らしめる風格ある一皿だった。  静まりかえった店内で、ぎこちなくナイフとフォークを使い、肉のひとかけらを口に入れただけでそれは確信に変わった。歯触りは、最初はさくさくして。そして肉の弾力がちゃんとあるのに柔らかくて。噛むたび肉汁が幸福な高揚感をもたらしてくれる。 「すげえ。俺、こんなおいしいカツ食べたことないです」  素直にそう言うと、コックのおじさんはいきなりコック帽をとってくしゃっと握り、俺に深く頭を垂れた。  一つ空席をはさんで座っていた不良少年が「だろ?」と急になれなれしく微笑んできた。  それが晶一で、コックのおじさんが父親の林田さんだった。     
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