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「オヤジにカヨコさん紹介しようと思って『花みずき』に連れて行ったんだよ。『俺、中学卒業したら高校行かないでこの店手伝うから』って言うつもりだったんだ。そしたら、あれだ。父さんのほうがカヨコさんにのぼせ上がっちゃって。まあ、血は争えないっていうか。でもそうなったもんは、しょうがねえよな。父さんはあれでも腕のいい料理人だし。俺のほうは自分の子供と年の変わらない不良のクソガキだし。どっちのほうがカヨコさん幸せにできるかなんて、考えてみるまでもねえしな」
母さんが林田さんと正式に籍を入れてから、しばらく俺たちは林田さんの持ち家で四人で暮らした。林田さんは寡黙で実直な人だった。俺たちはそれなりにうまくいっていたと思う。
しかし晶一は進学した高校をすぐにやめてしまい、寮のある職場をみつけて逃げるように家を出ていった。
やがてそこも、上司ともめ事を起こして辞めることになる。
「いい親方だったんだけどさ、酒が入るとめっちゃからんでくるんだよ。『お前は実家に居場所がないんだろ』とか。『継母に家を追い出されてかわいそうな奴だ』とか。そういうのを世の中じゃ、優しさっていうの? でも俺は許せなくってさ。カヨコさんはそんな人じゃないって、何度も言ってんのに。職場でも、訳知り顔で俺がカヨコさんのせいでグレたみたいに言いふらす人も出てきちゃって。なんかいろいろ我慢の限界だったんだよな」
晶一は当時、そう話した。そして寂しげに笑った。
「あの人たちがわかったような口きくために、なんでカヨコさんはおとしめられなきゃいけねえの?」
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