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「ダン、いい子だ。いい子だね。」
私は、いつもそう声をかけながら、ダンの頭を撫でて褒めてやる。
ダンは利口な犬だ。
私が棒切れや、ボール、何を投げても夢中になって追いかけて、必ず私の足元に持ってきて、きちんとお座りをするのだ。私が言った言葉がわかるようで、言った通りの物を私の元に届けてくれるのだ。
新聞、リモコン、スリッパ。おそらく3歳児程度くらいの語彙くらいなら軽く覚えているだろう。
精悍な顔のシェパード犬のダン。
私の自慢の家族だ。
ただ、今日だけは、ダンを叱らなくてはならなかった。
ダンは、いつもと同じように、私の足元に、ちゃんと口に咥えた物をそっと置いて、私から頭を撫でて褒めてもらうことを待っているのだ。
「ダン、私は、これを持って来いとは言っていないよ?」
ダンは利口すぎる犬だ。
確かに、ダンが私の元に持って来た物は、三日前までは私の物だった。
ただし、三日前までだ。
二日前に、それは、他の誰かの物になった。
だから、もう私の物ではないのだ。
彼女は私が、気付いていないとでも思ったのか。
平然と嘘を言い、私のベッドに横たわり、私を誘ったのだ。
心にやましいことがあると、人間は誤魔化そうとする。
クズめ。
「ダン、私がいつ、勝手にリサを持って来いと言った?」
褒められるものと構えていたその動物は、キョトンと首をかしげた。
私の静かな怒りを感じたのか。犬も上目遣いをするのだとその時初めて知ったのだ。
その上目遣いがリサによく似ていた。
私の足元の、土にまみれた青白く細い腕を、ダンがもう一度、鼻でころりとこちらに転がして、自分を褒めるように催促してきた。
「ダン、君は罰を受けなければならない。」
私は、ほとほと疲れていた。
何せ、二度も大きな仕事をやってのけたのだ。
ダンは、リサほどではないが、一応大型犬なので、パーツに分けなくては、とても私の非力な力では、運べなかった。小さなパーツに分けて、少しずつ運び出し、山のところどころに埋めた。
リサの時は慎重を期したつもりだったが、犬に簡単に掘り起こされるようではまずい。
リサは、もっと細分化し、あらためてもっと地中深くに埋めた。
疲れからか、ダンを埋めるのはおざなりになってしまったが、ダンは犬なので問題ない。
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