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「こんばんは」閉店間際に来ても、マスターは嫌な顔ひとつしない。
僕はブース席に腰を落ち着けた。マスターは水とウエットナプキンを
カウンターから持ってきてくれる。
「ありがとうございます。コーヒーお願いします」僕が注文すると、
マスターは「ありがとうございます」と答えて笑った。
閉店間際の少しくたびれた笑顔も良い。右目の上に小さいけれど深い
傷があって目尻のしわと一緒に伸びる。
「あ、内藤君は、甘いもの好きですか?」おじいちゃんと孫ほど年が離
れた僕にもマスターは丁寧語を崩さない。
「はい、好きです」
「実は、ドーナツをお客さんから差し入れでいただいたんです」
マスターが言うと、カウンターに座っている女性がひらひら僕に手を振った。僕はその女性に頭を下げる。仕事終わりによく来るという常連のОLだ。「いただきます」と僕が言うとそのОLはにっこり笑った。
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