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日常の中で、ふと我に帰ることがある。
まるで他の誰かであるように自分を見つめる。
そしてそんなとき決まって思うのだ。
なんて無味乾燥でつまらない人間なんだろうと。
適当に相槌うって愛想笑いして、そんな自分にひどく疲れる。
王子、王子、ともてはやされたところで空っぽな”自分”がますます空っぽになるだけだ。
そうして涙までも無くなってしまったときにはもう、はやく死が訪れないのかとばかり考えていた。
自分で死ぬ勇気はなく、そして生きることに疲れていたのだ。
「楓さん」
飽き教室の椅子を並べて寝そべっていたら、番犬がやってきた。
「こらこら、どこ触ってんだ」
ちらりと控えめにシャツの裾を捲られると、少し汗ばんだゴツゴツした指が腹に触れてきた。
聞き分けのないいかがわしい手をはたき落すと犬は不貞腐れたように口を尖らせた。
「起きてたんスか」
「おまえは、僕を目を開けたまま寝るやつだと思ってたのか」
「…………」
こいつはなんというか。
番犬という言葉はあまり似合わない。
決して忠犬ではないことは確かだが。
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