第1章

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「彼処の海が恋をした」  パイプにスーツ。ふかした煙に見え隠れは自慢のコーク・ブラックのネクタイ。ピンと張ったひげをひと撫でし、またパイプをふかす。  彼女の名前は笑子(えみこ)。スーツを着た立派な、探偵である。この辺りでは珍しく、獣面人身のネズミだ。  ネズミは縁起が悪い。汚い場所が好きだ。だから嫌われる。豚も鶏もキツネも虎も、ネズミは大っ嫌い。  しー。  しー、だ。静かに。これは秘密のお話。実は、彼女は綺麗好きの上品を気取っているネズミで、だからそれを知っているネズミ仲間からも嫌われている。
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