第1章

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 ところで、彼女、汚い場所が好きだと思われている彼女が出会うことになったある事件について、最初の顛末を説明しよう。これは、もっと、しー、な話かもしれない。  いつだったかは、わからない。  ある日、海はある人物と恋に落ちた。その人物も、海に恋をした。だが、海はみんなのもの。恋人だけのものになれない悲痛な時間が、どれほど続いたか。  そして、その恋がどうなったかなどわからないが、ある日、町の人々は驚愕することになった。  ――海が、消えた。  ある日目覚めて窓を開けると、そこにあるはずの海がなくなっていたのだ。町の人々は慌てふためいた。目を丸くした。転び、飛び跳ねた。 「海がどこかへ行ってしまった!」  その時、彼らは相談した。どうにかしよう。だが、どうするか。こういう時、頼るべき相手が、いない。いや、――いた。  一人だけ。  一人、探偵、という職業をしているドブネズミが、いる。探偵であれば人探し、いや、海探しも職の内だろう。  そこで町内会長のヒツジが訪ねることになったのが、「笑子探偵社」の札が下がった、あのいけ好かないネズミの家だった。
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