紫煙の惑星

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 通気孔からヤニで真っ黒になったであろう液体が、ぼばっ、と溢れた。  自分の身よりもタバコを心配するニチンチコ人大使は間違いなく重度タバコ依存者、地球で言うところのニコチン中毒者の鑑だ。 「ああ。無事だ」  とっさの嘘を吐く。貨物室から黒煙が吹きだしているのが視界に入った。十万近くあったカートンはすべて灰になっていることだろう。 「そうです、か」  ニチンチコ人大使は安堵の表情を浮かべ、二度と目覚めない眠りについた。  俺にその死を悲しむ余裕はない。急いで出口へと向かう。ハッチを開ける。紫煙が一気に船内に流れこむ。逆らうように俺は外へと脱出した。  濃霧の世界が広がっていた。三センチ先がうっすら見えるか見えないかぐらいだ。おぼつかない足どりで船体のはしごを使い、下へとおりていく。  足もとを見て、ぎゃっ、と俺は思わず声をあげてしまった。タバコの吸い殻が地面を覆い尽くしている。さらに底なし沼に足を突っこんだかのごとく、ずるずる沈んでいく。
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