紫煙の惑星

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 どうなっているんだ? この惑星は。俺はあわててはしごに手を伸ばす。高度な文明とは、ほど遠い惨状じゃないか。 「うおーい。うおーい。うおおーいいい」  と、間延びした声が俺の耳に入ってきた。  声のした方角を見ると、ボートに乗ったニチンチコ人の一団が、紫煙をオールで振り払いながらやってきた。  救援。救援だ。救援がきてくれたのだ。  俺は片手を挙げ、合図を送ろうとした。が、彼らの耳を疑う会話のせいで、ぴたりと動きがとまってしまった。 「見ろ! ホントにあったぞ」 「巨大なタバコが空から降ってきたのは、嘘じゃなかった」 「あれだけのサイズだ。吸えば、さぞ気持ちいいぞ」  彼らは、全身の通気孔にタバコを突き刺しあい、虚ろな表情をしながら煙を吐きだす。逃げ場を失った紫煙が、空いている通気孔から爆発せんばかり飛びだした。  重度タバコ依存者。幻覚。無法地帯。不吉な単語が、俺の脳裏をよぎっていく。  青白い炎を灯した大きなバーナーをぶんまわし、ニコチン中毒者どもが近づいてくる。やつらの言葉一つ一つが地獄のメロディを奏でているかのようだ。  俺は覚悟を決め、ガスマスクをはずし、最後のタバコを味わうことにした。
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