紫煙の惑星

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 こんな逸話がある。 「世界で売れないなら、宇宙で売ればいいのよ」  某王妃を彷彿とさせる台詞を真顔で述べた夫人。  その夫である取締役は驚きのあまり火のついたタバコを床に落としてしまい、危うくボヤを起こしかけた……。  ただ、この提案は結果として、赤字一辺倒で右肩下がりだったSSC(スペース・スモーキング・カンパニー)の業績を見事に黒字回復させるきっかけとなった。もし彼女の発言がなければ、宇宙一の知名度を誇るタバコ製造販売会社は生まれなかっただろう。 『SとSがつなぐスペーススモーキングの輪。宇宙タバコは文明開化の味がする』  だれもが知るSSCのキャッチフレーズであり、また、嫌煙の惑星となった地球に対する皮肉でもある。  SSCの葉巻型宇宙貨物船の喫煙エリアで、俺は自社メーカーのタバコを一本とりだし、ライターで火をつけた。口にくわえ、息を吸い、タバコをよけて、深く息を吐く。文明開化の味などちっともせず、苦味と辛味が舌を刺激するだけだ。うまくない。それでもやめられないのは、俺が完全にニコチン依存に陥っているせいだ。実際、心が落ち着くのがわかる。
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