紫煙の惑星

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 すべて自動化された船内において、俺の仕事はないに等しい。品質管理チェック。タバコが湿気ないための気温調節。この二つを定時に行うだけだ。ゆえに余暇の時間は山ほどあり、こうしてタバコを吸う時間も充分すぎるほどあった。  短くなったタバコを吸い殻で溢れた灰皿に置く。電子音とともに灰皿が自動的に回収され、新しい灰皿に切り替わる。 「すはー。ううーん。相変わらずお宅のタバコはうまい。まさしく文明開化の味ですなあ」  ニチンチコ人大使が、俺のとなりで盛大な煙を吐き、半分ほどになったタバコを新しい灰皿に押しつける。  透明ガラスで密閉された空間が一瞬で紫煙に包まれていく。センサーが反応し、すぐさま換気が行われた。  支社と工場だけで一万以上。宇宙を股にかけるSSCは、今や外宇宙の辺境にある星々にまで勢力を伸ばしていた。この船が向かっている惑星ニチンチコもその一つである。  俺は、その勢力図の末端に配属となったエリア担当マネージャーだ。名目上は異動扱いとなっているが、実際は左遷である。  まあ、他社メーカーのタバコを吸っていたのが上司にバレてしまい、おまけに全銀河SNSに自社の悪口を書きこんでいた事実も露見したのだから仕方ないが。
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