紫煙の惑星

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「ええ、もちろん。嗜好品と呼べる品物は、かつてのニチンチコにはありませんでした。ですが、お宅のタバコを吸いはじめ、ニチンチコ人は娯楽を知り、より高度な文明を得たのです」  別の通気孔から一気に煙を吐き、ニチンチコ人大使は震える指先でカートンの包み紙をビリビリ破きだした。 「うれしいお言葉ですね。あと、これは参考にまでなのですが、ニチンチコ星では社会問題は発生していませんか?」  SSCの業務マニュアルに以下の文がある。他星において地球同様、嫌煙運動の危険性がないか調査すること。  この内容に沿って、俺は雑談がてらに聞いてみたわけだ。 「実は、重度タバコ依存者が出てきております」  ニチンチコ人大使は少し表情を曇らせ、ぼそぼそ言う。 「重度タバコ依存者?」  ニコチン中毒者のことか?  ニチンチコ人大使は、震えているにも関わらず慣れた手つきで箱の底を叩き、タバコを一本とりだす。さっきとは別の通気孔でタバコを吸いながら、話をつづけた。 「ええ。一日で、お宅のタバコを最低でもワンカートン吸い尽くす連中ですよ。最近じゃ幻覚が出現したのか、タバコに見えるものなら、問答無用で火をつけようとします。ニチンチコ人の恥ですよ」
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