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「涼、上だ!」 斎藤が叫んだ。 頭部達で作られた壁が櫻井のすぐ頭上にある為に、櫻井からは見えていないが、天井一面に広がった巨大な豪将の顔があった。 「涼、家族を連れて逃げろ!」 再び斎藤が叫んだ。しかし既に手遅れだった。 巨大化した豪将の緑色の舌が、十数本の触手に枝分かれしながら櫻井を襲って来たのである。 櫻井が、大の字に両手を広げて、全ての触手を全身で受け止めた。 触手が波打ちながら櫻井を吸収してゆく。 「結花、すまない。大介を頼む!……大介、母さんを頼んだぞ!」 急速に色褪せてゆく櫻井が、掠れた声で二人に告げた。 「涼!!!」 結花が半狂乱になりながらソファーにあったクッションを天井に向かって投げつけたが、そもそも櫻井はおろか豪将にも実体は無い。 「結花! …………。」 消え入る寸前に櫻井が結花を見つめて、何かを言った。 櫻井は最後に、結花に柔和な笑みを残して完全に消えてしまった。 居間にいた全員が茫然と立ち尽くしていた。 何故か豪将も微動だにしなかった。
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