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凍える程に冷たく、それでいて上辺だけは飄々とした不快な声だった。
「聞こえたな?」
初老の男の問いかけに、受話器の男は答えない。
「いやぁ、長電話って高くつくでしょう?私、主人思いですから……まもなくそちらに到着致しますよ?」
「いや!いやいや、来るな。来なくていい。そのまま……そのままで用件だけ伝える。アキラ将軍の任務結果を見届け、必要があれば補足しろ」
今まで、余裕ある雰囲気を崩さなかった男はいつに無く焦った様子でそう言うと用件だけを手短に伝えた。
「……まぁ私、尾行はおろか、隣に立っている事も出来ませんし……アキラ君にわざわざ近づくのも得策ではないですかねぇ。ついでに魔法もダメ。そんな私を雇ってくださるご主人様には頭が上がりませんよ。旧王……ペイン様」
すでに政権を手放している旧王ペインだったが、彼には息子である現王のやり方に大きな不満を抱えていた。特に軍事においての不満は大きく、未だに非正規部隊の権限は一つとして引き継ぎを済ませていない。受話器の先にいる男はそんなペインの心内を知りながらそんなやり取りを楽しんでいる様にも聞こえた。
「世辞はいらん。一任する」
「畏まりました。後はこの十字架に祝福を……」
受話器を置いたペインは衣服がベタつくほどの発汗に不快感を感じ、同時にそれほどに恐ろしい力を持つ男と裏で繋がっているという事実に妙な高揚感を感じ、歪な笑みを浮かべた。
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